~少年の主張~「みえないもの」
令和7年11月22日(土曜日)に、日立システムズホールで開催された仙台市青少年フェスティバル2025において、仙台市内各区の少年の主張大会で最優秀賞に輝いた生徒が「少年の主張」の発表を行いました。
「少年の主張」は、こどもたちが日頃感じていること、悩んでいること、大切にしていることなどの意見を発表し、青少年にとっては、同世代の考えを共有できる場として、また、大人にとっては、中学生時代の自分の考えを振り返る場となっています。
令和7年度の「少年の主張」の中から、「いじめ」に関する、ご自身の経験を踏まえた気づきについての発表をご紹介します。
「みえないもの」 ⅠYさん
先日、中学生がいじめに苦しみ、自ら命を絶ったというニュースを目にしました。
胸が痛みました。
「いじめをなくそう」そんな言葉を、もう何度も聞いてきたのに、どうしてこのような悲しい出来事が起こるのでしょう。
その子の周りにはきっとたくさんの人がいたはずです。
でもその子の痛みに気付くことができた人は、どれだけいたのでしょうか。
私は思います。
心の痛みは目には見えません。
だからこそ、気付くのはとても難しい。
でも、「見えない」ということと「ない」ということはまったく違います。
見えないからこそ、想像することが必要だと思うのです。
私にも心が沈んでいた時期がありました。友達がいないわけではありませんでした。
でもみんなと同じ場所にいるのになんとなく自分だけ輪の外にいるような気がしていました。
話しかけようとしたけど、うまく言葉が出てこない。
笑い声が遠くに感じる。
そんな日々が続いて自分の居場所がよくわからなくなってしまったのです。
そんなある日、私は部活動の大会で学校を一日休みました。
その大会は私にとって最後の大会で、今までにないほど緊張して挑んだ試合でもありました。
結果は、目標にしていたものには届きませんでしたが、私の中ではとても満足のいく試合でした。
晴れ晴れとした気持ちでしたが、次の日からまた学校が始まると思うと、少し憂鬱でした。
重い足取りで階段を登り、教室のドアを開けました。
いつもどおり、自分の席につき、荷物を整理していると、
「お疲れ様!」と声が聞こえました。
私は最初、その声が自分に向けられたものだとは思いませんでした。
でも、横を見ると、クラスメイトが明るく柔らかい表情で私に笑いかけていました。
突然のことで、驚きました。
驚いたけれど、その時、私の心の中になんだか温かいものが広がったことを今でもはっきり覚えています。
休んでいた自分のことを気にかけてくれていた人がいたことが、心底嬉しかったのだと思います。
何気ない一言。でもその一言に私は救われたのです。
その子だけではありません。
私の周りではすぐそばで見守ってくれた人たちがいました。
いつも静かに私の話を聞いてくれた母、私の寂しさに気づいて話しかけてくれた先生、他愛もない話で笑わせてくれた後輩。
そうしたたくさんの人の優しさが、私を支えてくれたのです。
もし、あの中学生にも、痛みに気づいてくれる人がいれば。
一度でも話しかけてくれる人がいれば、尊い命を救えたかもしれない。
そう思うと、私たちの「見ようとしない態度」には、想像以上に重い意味があるのではないでしょうか。
では、どうすればよかったのか。どうすれば私たちは、その見えない痛みに気付くことができるのでしょうか。
答えは簡単ではありません。
けれど、第一歩は気付こうとする気持ちを持つことです。
いつも笑っているあの子の本当の気持ちに気付くこと。
誰かの「大丈夫。」の裏に声にならない思いがあるかもしれないと想像すること。
そして、その子に寄り添う行動をためらわないこと。
たった一言で、ささいな行動一つで、人は救われることがあります。
私はそれを自分の体験を通して知りました。
難しいことではないけれど、勇気のいることかもしれません。
声をかけて、自分の勘違いだったらどうしよう。なんて考えてしまうこともあります。
でも、私は思います。
声をかけて間違えることよりも、何もしないまま誰かの心が壊れていくことのほうがずっと悲しい。
私たち中学生は、まだ子どもだから力がないと思う人もいるかも知れません。
けれど私達には「相手を思う力」があります。
「寄り添う力」があります。
私達に必要なのは、知識でも権力でもありません。
見えない痛みに気づこうとする力、そのために一歩近づく勇気、それは誰かの命を救う力になるはずです。
あのとき私の痛みに気づいてくれた人達のように、誰かの痛みに気付ける人でありたい。
あの時貰った優しさを今度は私が誰かの心に届けたい。
その行動が、見えない痛みの中で希望の光になると私は信じています。
ⅠYさんは、自分の経験から、とても大切なことを学ぶことができたようです。「他愛もない一言で心が救われた」という経験をした方は、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
難しいことかもしれませんが、ⅠYさんのように、大人もこどもも「相手を思う気持ち」や「寄り添う力」をほんの少しだけ持つことによって、たくさんの人が救われることと思います。
大切なことに気付かせてくれたⅠYさん、本当にありがとうございました。